2018年6月29日に成立した働き方改革関連法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)では、時間外労働の上限が月間100時間、年間720時間に設定され、月間45時間を超える月は年間6ヵ月まで、かつ複数月間平均80時間を上限としています。つまり、実質的に残業時間の明確な上限が制定され、企業によっては残業時間削減への取り組みが余儀なくされるということになります。

もちろん、労働者にとって過酷な環境を作らず、働きやすくワークライフバランスを整えることは企業の責務ではありますが、現状の仕事量から考えて社員の残業に頼らざるを得ない状況は確かに存在しています。そのため、働き方改革関連法案が施行されることで「経営を圧迫しろというのか」と納得していない経営者も少なからず存在します。

しかし、国会で法案が成立した以上、残業時間の上限規制は待ったなしで施行され、大企業は残り1ヵ月余り、中小企業では残り約1年間の準備期間でこれに対応しなければいけません。こうした状況下において、果たして企業は「残業時間削減」という施策だけでこれを乗り越えることはできるのでしょうか?

答えは「NO」です。残業時間削減だけでは働き方関連法案へ適切に対応し、かつ継続的な成長体質を作り上げることは不可能です。

そこで本稿では、残業時間削減だけでは企業の働き方改革が失敗する理由と、働き方改革を成功に導くためのポイントをご紹介します。

日本企業の労働時間はどれくらい?

海外諸国の企業と比較して日本企業で残業時間が多い。と思いきや、意外とそうではありません。OECD(経済協力開発機構)が毎年発表している世界の年間労働時間ランキングによると、1位はメキシコの2,257時間、2位がコスタリカの2,179時間、3位が韓国の2,024時間となっており、日本は38ヵ国中22位の1,710時間です。全体平均が1,759時間となっているので、それを下回っている結果となっています。実はおとなり韓国の方が、日本人よりも年間250時間以上労働しているのです。ただしこの数値は、パートタイマーを含んだものなので実際に正社員が働いている時間よりも大幅に少なくなっています。

日本企業の平均的な年間休日数は120日なので、平均的な年間労働日数は356日-120日で245日となります。有給休暇が10日間あるとすれば、年間労働日数は235日です。これに通常労働時間の8時間をかけると、年間1,880時間となるため、OECDのデータは正社員に限定すれば実際の数値と大きく乖離していることが分かります。これに大なり小なりの残業時間が足されるので、年間労働時間が2,000時間を超える労働者は多いと推測できます。

出典:グローバルノート - 国際統計・国別統計専門サイト 世界の労働時間 国別ランキング・推移(OECD)

なぜ、残業時間削減だけではダメなのか?

厚生労働省が昨年12月に発表した労働経済動向調査によると、働き方改革で企業が実施した取り組みで最も多かったのが残業時間削減の推進と、長時間労働削減のための労働時間管理の強化でした。実際に働き方改革関連法案の施行を目前に、残業時間削減を声高に叫んでいる企業は多いでしょう。しかしながら、その残業時間削減が掛け声だけで終わっている企業もまた多く存在します。なぜ、残業時間削減に取り組んでいるだけではダメなのでしょうか?

1. 業務の見直しができていない

一番よくある問題が「残業時間削減に取り組んでも、業務の見直しができていない」ことです。一般的に労働時間が多いとされている企業では、働き方改革関連法案の施行にともない、残業時間を削減する必要があります。しかしながら、残業時間を削減するだけで、仕事量まで削減しているわけではありません。もちろん、仕事量を減らすということは利益が減るということなので、それは困るという企業がすべてでしょう。

そこで仕事量を減らすのではなく、現在の業務を見直すことで労働負担を軽減し、残業時間削減に取り組むことが大切なのですが、多くの場合では残業時間削減だけに注力してしまっています。

2. 結局時間外労働を強いられる

時短先進国ドイツでは、社員の残業は管理職の監督不行届として罰金を課す企業があるといいます。日本企業の中にもそうした海外諸国の企業を参考に、罰金とまではいかずとも人事評価で考慮するとしている企業が増えています。そうしたほとんどの企業では、結局のところ時間外労働を強いられている状況にあり、環境改善へは依然として向かっていません。

自分の評価がかかっているとなれば部下に残業禁止を徹底する管理職は多いですが、業務量はまったく減っていないため、社員は休日返上で出勤していたり、休憩時間を削ってまで働きます。最悪の場合、管理職自身がそれを強要しているケースもあるでしょう。

3. 社員の意識改革に取り組んでいない

少し前に、「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」という著書が話題になりました。内容はドイツにて27年間在住し働くジャーナリストの熊谷徹氏が、ドイツと日本の労働環境の違いを比較し、苦言を呈するというものです。実際にドイツの年間労働時間は1,356時間なので、日本よりも約400時間も少ない数値となっています。

日本では長らく「残業至上主義」が経済界全体に蔓延していました。残業さえしていれば自然と評価されるため、多くのビジネスパーソンは、昼間は適当に仕事を流し、午後5時から頑張るというのが常識となっていたのです。今でこそこうしうた風潮は少なくなりましたが、残業が評価される企業はまだまだ多いのかもしれません。

こうした中で残業時間だけを削減しても、仕事量とのバランスが取り除けず、どこかに歪が生じることは明白です。従って、日本企業の多くは残業時間削減よりもまず社員の意識改革に取り組まなければなりません。

4. 業務の質が落ちている

残業時間を削減せねばと焦って作業をすると、業務の質が落ちるのは当然のことです。これも、残業時間は減らしても仕事量は減るわけではなく、業務を見直さないことの弊害です。顧客に提供するサービスの質が低下すれば、当然利益は低迷していきます。

働き方改革を成功へ導くには?

まず大切なことは「働き方改革=残業時間削減」という固定概念を捨てることです。確かに、残業時間削減は当面の課題ではありますが、前述の通りそれだけに取り組むことは逆に多数のリスクを生むことになります。そこで必要になるのが「労働生産性を向上するために何が必要なのか?」を考えることです。

極端な話しではありますが、労働生産性が今の2倍になれば、業務時間を2分の1に削減しても今まで通りの仕事量を遂行して利益を維持することができます。つまり多くの企業にとっての課題は、残業時間を削減することではなく、業務の見直しや改善によって、現在よりも労働生産性を向上し、その上で残業時間削減などに取り組んでいくことです。

働き方改革には、必ず労働生産性向上が伴っていないと成功しないこと、すべての企業が理解していないといけません。皆さんにとって、労働生産性が向上するための取り組みは何か?まずは考えてみましょう。
その際にSysTrackを活用して従業員の働き方を見える化をすることを検討いただければ幸いです。

出典:厚生労働省 労働経済動向調査(平成30年11月)

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