「ITIL」とは、ITサービスを管理するためのベストプラクティスをまとめたフレームワークのことです。多くのIT企業において、サービスの品質向上のために利用されています。本記事では、ITILの概要や導入メリット、導入時の注意点について詳しく解説します。

ITILとは

「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」とは、ITサービスマネージメントにおける、ベストプラクティス(成功事例)をまとめたガイドラインです。ITILを参考に自社の提供サービスを見直すことで、「サービス品質の向上」「コストの最適化」を目指します。現在は、ITサービス管理手法のデファクトスタンダードとして、世界中の企業で参考にされています。

1989年、英国政府はITに対する投資対効果の改善を目的に、ITサービスを整備するガイドラインを制定しました。これが現在のITILにつながっていると言われています。その後、2011年に「ITIL 2011 Edition」が、2019年には最新バージョンの 「ITIL 4 」がリリースされました。日本では、「itSMF Japan」が普及活動を行っています。

ITILの5つのプロセス・カテゴリー

ITILは、「サービスライフサイクル」と呼ばれる重要な5つのプロセスで構成されています。以下で1つずつ確認していきましょう。

サービスストラテジー

「サービスストラテジー」は、ITサービスの設計・開発・実行を戦略的に検討するフェイズです。戦略を立てる際は、「ビジネス領域の決定」「提供するサービスの定義」「サービスを提供する必要資源の確保」「戦略の構築」の4点を主に考慮します。すなわち、顧客に対してどのようなビジネス領域でサービスを提供するか、そのサービスは資源的に実現可能か、提供後どのように継続・管理するかということです。

サービスストラテジーの構成要素には、「需要管理・財務およびコスト管理・ポートフォリオ管理・事業関係管理」が含まれます。顧客ニーズの分析や参入ビジネス領域の検討、利益率などを多角的に考察しましょう。

サービスデザイン

「サービスデザイン」は、前出のサービスストラテジーに基づいた戦略実現に向けて、新規ITサービスの作成や、既存ITサービスにおける変更のための設計を行うフェイズです。高い品質・顧客満足度・費用対効果を保持したITサービスを、安全に本番環境に導入できるよう設計します。このとき、「機能性・リソース・スケジュール」の3つのバランスを意識することが重要です。

サービスデザインの構成要素には、「サービスカタログ管理・可用性管理・キャパシティ管理・ITサービス継続性管理・サービスレベル管理・サプライヤ管理」などが含まれます。品質やコンプライアンス、リスクやセキュリティを考慮したうえで、効率的なITサービスを提供・管理するためのプロセスを設計しましょう。

サービストランジッション

「サービストランジッション」は、サービスデザインにおいて設計したサービスを運用段階に移行する際の、リスクコントロールを行うフェイズです。設計した通りのサービス内容を反映させる際に生じる、組織へのダメージを最小限に抑えつつ、スムーズに移行を進めることを目的とします。

サービストランジッションの構成要素には、「移行計画の立案および変更管理・サービス資産および構成管理・リリースおよび展開管理・サービスの妥当性確認・ナレッジ管理」などが含まれます。ここでの「リリースおよび展開管理」は、ITサービスの変更に必要なハードウェアやソフトウェアについての更新・変更などを、特定の規模へ確実に実行するためのプロセス全般を指しています。

サービスオペレーション

「サービスオペレーション」は、サービスデザインで設計したサービスレベルに基づき、顧客やユーザーに対して実際にITサービスを提供するフェイズです。サービスオペレーションの構成要素には、「インシデント管理・要求実現・問題管理・サービスデスク・技術管理・アプリケーション管理・IT運用管理」などが含まれます。

「インシデント」とは、サービスの意図しない品質低下や障害のことです。このフェイズでは、いかにインシデントを避けるか、そしてインシデント発生時の被害をいかに低減するかを考えます。「サービスデスク・アプリケーション管理」でも、インシデントへの対応も含めた支援窓口の設置や、障害発生時のサポート体制を構築します。

継続的なサービス改善

「継続的なサービス改善」は、ビジネスニーズの変化に合わせて、ITサービスやプロセスを継続的に改善する活動です。具体的には、有効的で効率性のあるITサービスを継続的に提供するために、提供中のITサービスにおけるパフォーマンスを測定・分析します。

この活動は、すべてのフェイズで行われるべきものです。すべての段階で、定期的なフローの見直しやPDCAサイクルを実施することで、高いサービス品質を長期的に保てます。

ITILの導入メリット

ここまで、ITILの概要や5つのカテゴリーについて解説しました。ITサービスを提供するうえで、ITILの導入はさまざまなメリットをもたらします。以下では、ITIL導入によるメリットを紹介します。

システム利用者の満足度向上

ITILの導入メリットとして、まずITサービス利用者の満足度向上を期待できる点が挙げられます。

ITILを参考することにより、サーバーやジョブ、運用フローなどの数を数値化し、管理・比較できるようになります。これにより、ITサービスにおける品質を可視化し、細かい改善が可能です。改善が積み重なることで、ITサービス利用者の顧客満足度アップにつながるでしょう。

またITILの事例を参考に、チャットボットを活用した問い合わせや、トラブルが起きた際のSNSでの情報提供など、ITサービスをさらに発展させることも可能です。事例を参考にして、顧客のニーズを読み取り、自社サービスに合わせたITサービスを展開するのもよいでしょう。

こうして自社のITサービスの品質を向上させられれば、サービス利用者の満足度向上につながります。顧客満足度が向上すれば、利益向上も含め、企業としてのさらなる発展が期待できるでしょう。

インシデントを減少し、レジリエンスを強化

インシデントとは具体的に、「システム運用を通して提供されるサービスが中断したり、サービス品質を低下させたりする出来事」のことをいいます。またレジリエンスとは、「インシデントが起きた際の回復力」のことです。

ITILを導入すれば、対応方法が明確になることで、サービスの復旧スピードが上がり、レジリエンスを強化できます。ITサービス自体の品質が高まるだけでなく、インシデント発生時の対応方法も学べるからです。また、ITILを活用してインシデントの分析・対策を行うことで、インシデント自体の発生率を減少させることにもつながります。
こうして、ITILを導入すると、インシデントの予防・対応とレジリエンスの強化に大きな効果を期待できます。より安定したITサービスを提供可能となるでしょう。

無駄な運用コスト削減

ITILの導入によって、システム管理のノウハウを共有したり、オペレーションを整備したりすれば、効率的にITサービスを管理できるようになります。これにより、無駄なリソースを割くことなくITサービスの提供を実現し、かつサービス運用についてもコスト削減が期待できます。また、中長期的な視点で考えると、ITILを導入することで企画開発のスピードアップも図れるため、さらなるコスト削減につながるでしょう。

ITILの導入の注意点 

ITILの導入によってさまざまなメリットが得られる一方で、ITILをうまく導入できずに終わってしまう場合もあります。ITILの導入を成功させるには、注意点を押さえておくことが大切です。ここでは、特に重要な3ポイントを紹介します。

3Pのバランスが保たれているか

ITILを導入する際には、「Process(プロセス)」「Person(人)」「Product(製品/ツール)」の「3つのP」のバランスを意識することが大切だと言われています。それぞれの詳細は以下の通りです。

  • Process(プロセス):業務レベルを向上させるため、メンバーの役割や責任について検討し、適切な業務フローを検討する
  • Person(人):ITサービス管理の品質を高めるため、メンバーの知識やスキルの向上を促す
  • Product(ツール):ITILをよりスムーズに導入するため、サポートツールの導入を検討する

これら「3つのP」は、どこか一部が際立っていてはうまくいきません。一般に、「Process:Person:Product=4:4:2」が適切な割合とされています。プロセスや人を中心に、ITIL導入のための準備やサポートを行いましょう。

ITILに対応していないツールで管理していないか

ITILの導入がうまくいかない事例のひとつが、ITILに対応していないツールを利用し管理しているケースです。

一般的によく使われている「Excel・Word」などのアプリケーションは、ITILに対応したツールではありません。これらのアプリケーションを使って管理するには、担当者が足りない部分を補完する必要があります。結果的に、この保管を含めた管理について、担当者の業務量が増加してしまうでしょう。また、担当替えの際にうまく引き継げないと、ITILによる導入効果が担当者によって変わってしまう恐れもあります。

そこで、ITILを導入する際には、ITILに対応した運用ツールもあわせて導入するのがおすすめです。専用の運用ツールを活用すれば、ITILの導入が成功しやすくなるうえ、IT担当者の負担も減らせます。

継続的にPDCAサイクルができているか

ITILのプロセスにもあるように、継続的なPDCAサイクルを回すことが、ITIL導入の成功を左右します。

そもそも「PDCAサイクル」とは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の4つのプロセスを繰り返し行うことで、業務における課題を解決する手法のことです。ITサービスにおける課題に対しても、このプロセスを踏むことで、効果的に改善できます。

定期的に、提供サービスの効果測定や運営状況を顧みつつ、課題を特定しましょう。課題を見つけ、それを解決できるよう、チーム全体で取り組む習慣をつけることが重要です。

サービス利用者が求める価値や、それを実現する方法は常に変化しています。ただITILを基に、ITサービスを展開するのではなく、ITILを参考にして、継続的にPDCAを回すことを意識しましょう。これにより、長く利用してもらえるITサービスへと近づきます。

まとめ

ITILは、ITサービスの運用・管理の品質を高めるのに役立つツールです。自社サービスの向上を目指しているなら、ぜひ導入を検討してはいかがでしょうか。ITILを導入する際は、3つのP(Process・Person・Product )のバランスを意識したり、ITILに対応したツールをあわせて導入したりするなど、スムーズな導入・運用を行えるよう体制を整えておくことが大切です。